君のブレスが切れるまで
 何かもう一つ、プレゼントしたい。彼女のイメージを決めるような何か、大事な思い出になりそうな何かを。


 ふいに店内へ音楽が流れ始めた。
 蛍の光、だっただろうか? お店が閉店の間近になると流れるBGM。スマホを見ると既に九時前。時間も少ない、何か見つけられないか。
 私は店内をもう一度、くまなく歩き回る。


 見当たらない。


 音楽が私を焦らせ、今度でもいいんじゃないか? という考えも浮かんでくる。だけど、そうしてずるずると長引き、結局間に合わないなんてことになるのは嫌だった。
 焦って決めるのもあれだけど、この場で決めたいという気持ちが大きい。


「あ……」


 お店の奥、見落としていたのか一度も立ち入ってない場所で。きっと、これなら喜んでくれるというものが目に映り込んだ。


 無地の赤い……真っ赤な傘だ。すぐさまそれを手に取り、どんなものかと確かめる。
 かなり大きな傘なのは見た目の長さで容易にわかる、二人で入るのにも苦労しないだろう。持ち手は黒く、傘自体もしっかりしていて頑丈。けど、大きさと重厚感の割に驚くほど軽い。
 雨が使っている傘は大切に使われているのか見た目は綺麗ではあった。しかし、中身は長年使ってきた影響か錆が見受けられ、ガタが来ていることに私自身も気づいていた。


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