純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
その日の夕方、早めに仕事を終えた時雨は大事な用事を済ませるために向かった商店街で、偶然茨と出くわした。
調査のためにあらゆる場所に出没する茨だが、今日は彼も帰宅するところだったらしい。時雨の目的の場所まで方向が同じだったため、たわいない話をしながら共に歩調を緩めて歩く。
「最近、嫁の様子がおかしい」
浮かない表情で唐突に打ち明けた時雨を、茨は意外そうに目を丸くして見やる。
時雨が気になりだしたのはあの夜、帰り道で彼女に口づけをしたあとからだ。
普通に会話はするが視線を合わせなかったり、微妙に避けられていると感じるときがある。帰宅する時間が時雨と同じくらいになる日も増え、理由を聞いても『秘密です』とはぐらかされてしまう。
原因はあの口づけだったに違いないが、そんなに嫌だったのかと少々沈んでいる。命令したくはないと言っておきながら、本能的に唇を奪ったのはやはり間違いだったかもしれない。
珍しく悩んでいる様子の時雨に、茨は神妙な面持ちでこそっと耳打ちする。
「不倫調査しましょうか」
「なんですぐそっちの方向に持っていくんだ」
探偵にしてみればその調査は十八番なのだろうが心外だ。