純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
瑛一は物憂げな表情で打ち明けた。『玉響が愛していたのは、僕じゃない』と。
『玉響は、その相手とは決して結ばれないとわかっていたから、僕が代わりになって受け止めていただけなんだよ』
睡はずっと、ふたりが恋仲なのだと信じて疑わなかった。ところが、玉響は別の人への想いを瑛一に重ねていただけだという。愛し合っているように見えた情事も、報われない気持ちを慰めているだけだったのだと。
瑛一でなければ誰なのか。その手がかりとなるのが、玉響が最期につけていた簪なのである。瑛一いわく、それが本当に愛していた男からもらったものらしい。
玉響は多くの客から品をもらっていたので、誰から贈られたのかを特定できるかはわからない。しかし睡は無性に胸騒ぎを覚え、確かめなければいけないという使命にも似た感情を掻き立てられたのだ。
もどかしい気持ちで四片を待っていると、どこからか妙な匂いと、なにやら騒がしい人々の声が聞こえてくる。
「なに、この匂い……煙?」
きょろきょろと辺りを見回してすぐに、藤浪楼の奥のほうから黒い煙が上がっているのを発見した。たき火などではない異常な黒煙が空を呑み込み始め、血の気が引く。