純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
純潔花嫁

 桜の花びらが舞う頃、足もすっかり完治した睡は時雨に付き添い、ヴィクトリアン様式のハイカラな洋館に来ていた。今ここで行われているのは、名だたる企業の社長や重役の人々が集う交流会である。

 時雨に『関係各所に睡を紹介したいが無理強いはしない』と言われ、心英社社長の妻としてもっと自覚を持つためにも参加を決めたのだ。

 今日は、裾の長いスカートに鎖骨が露わになったセミイヴニングドレス姿で挑んでいる。この服装も、明らかに裕福な雰囲気を醸し出す富豪たちの中にいるのも、慣れなくて緊張しっぱなしだ。

 会場に来てからずっと時雨について挨拶をしていたが、会も中盤となった今、ひとり向かったお手洗いから戻ってきたところである。

 たくさんの人が優雅に立食を楽しんでいる中、時雨の姿を探す。彼は睡のために先ほどの場所から動かずにいてくれたようで、すぐに見つけることができた。


「ねえ、九重社長よ」
「いつ見ても素敵だわ~」


 ふいに近くからそんな会話が聞こえ、睡はつい反応して足を止めてしまう。
< 226 / 247 >

この作品をシェア

pagetop