呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 ――寧ろ、本来の彼は優しい人間なのではないだろうか。

 最初は猫にだけ優しい人間なのかと思っていたが、そうではないことを今日の執務室で知った。
 働きづめでうっすらと目元にクマができているキーリを労っていたし、資料を運んできた文官にも礼を言っていた。
 何よりも彼の机の上に置かれている書類にはネメトン周辺に住む人々の生活が瘴気に脅かされず、安心して暮らせるように政策提案がまとめてあった。

 身近な人や国民を想い、暮らしを良くしようとしている。
『雷帝』と言われて恐れられているが実際は懐の深い人物であるように思う。

(猫にも、そして人間にも優しい。なのに私の名前が出るといつも恐ろしい顔つきになるのはどうして? できれば私に対しても優しさを持って欲しいわ……)


 深い溜め息を吐いていると微かに空気が揺れたのでシンシアは意識を引き戻した。
 目前の窓ガラスに映り込んでいるのは自分の顔。その隣には顔面凶器が窓越しにこちらをじっと見つめていた。


「何を見ているんだ?」
『ひぎゃああああっ!!』

 吃驚のあまり、シンシアは跳び上がってそのまま全速力でソファの後ろに逃げ込んだ。いつの間に隣に立っていたのだろうか。考えごとをしていて気づかなかった自分が悪いのだが心の準備ができていなかったので衝撃を受けた。

< 100 / 219 >

この作品をシェア

pagetop