呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「嗚呼、驚かせてすまないユフェ」
 言い方や雰囲気からおろおろとしている空気が伝わってくる。シンシアがそっとソファから顔を出せば、片膝を床につけて許しを請うイザークの姿があった。

(皇帝が猫に跪くってどういうこと!?)
 今度はシンシアが慌てふためいた。ぱっと飛び出してイザークに駆け寄る。
『私は大丈夫ですので、そのようなお姿はおやめください。皇帝の威厳が損なわれます!!』

 だがイザークは微動だにしない代わりにおもむろに口を開いた。
「……正体を明かすことはユフェにとって危険な行為だったんじゃないのか? こんな結果なってしまったのも、俺がロッテを怖がらせてしまったから」

 イザークは自分のせいでユフェが妖精猫であることを明かしたのだと勘違いしているらしい。
 シンシアは妖精猫ではなく呪われた人間だ。実際はどうして喋れるようになったのか分からないし、謝罪されても却ってこちらが気後れしてしまう。

『確かに誤解はしてしまいました。でも最初からイザーク様はロッテを処罰する気なんてなかったんでしょう?』
「厳重注意処分にはする気だった。だが結果的にユフェに迷惑を掛けてしまったんだ。そのことについては詫びよう」
『それは私じゃなくてロッテに言ってください。あと正体を明かしたことは後悔してません。今まで黙っていたのは突然猫が喋ったら好奇の目に晒されるのを恐れていたからです。でもイザーク様やその周りの方たちなら私を受け入れてくださると確信したんです』

 我ながら上手く言ったものだ。口からの出任せではあったがイザークはその言葉に納得したようで、こっくりと頷いた。

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