呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 キーリを含め、臣下たちは職場環境が改善されたことを手放しで喜んだ。
 シンシアとしては宮殿を探索する自由な時間が減ってしまったので頭を抱えることになってしまったが。


 項垂れていると目の前に一輪の花が差し出される。

「可愛い俺のユフェに」
 一日の一回目の休憩で、イザークは必ず一輪の花を持ってここに戻ってくる。花は充分愛でた後、窓際の花瓶に飾られる。
 最初は一輪だけだった花瓶も今では豪華な花束が作れるくらいになった。凜と佇む花々はイザークの愛情深さを象徴していた。

 シンシアは胸の奥がキュッと苦しくなる。
 最近、イザークに花をプレゼントされる度に来る、この胸に広がる甘くも苦しい気持ちが分からない。この感覚に陥るのはほんの一時だけで、その後は特になんともない。

 一種の罪悪感の類いだろうか。

 シンシアは内心首を傾げながらプレゼントされた花を眺める。今日は情熱的な真っ赤なバラだ。瑞々しくほんのりと良い香りがする。

『いつも素敵なお花をプレゼントしてくれて、ありがとうございます』
 顔を綻ばせてお礼を言うと、イザークは少しだけ照れ笑いを浮かべる。

 それから窓際の花瓶へバラを挿し終わると、イザークはソファに腰を下ろした。続いて膝の上を手で軽く叩いて合図する。

 呼ばれたので素直に膝の上に載った。

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