呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 顔を上げればピンクの鼻をイザークの人差し指が軽くつつく。やがて手のひら全体で全身を優しく撫でられる。その後は肉球をぷにぷにと揉まれてマッサージされる――最近の日課だ。

 最初は恐れ多くて気後れしたが毎回花をプレゼントされるので何かできることはないか考えた結果、もふもふさせるのが一番だという結論に至った。


(ううっ……この魔性の手から逃れられる猫なんて絶対にいない。嗚呼、天国……天国はここですか?)

 気持ちが良くてゴロゴロと喉が鳴っていることにシンシアは気づいていない。リラックスしていつの間にか身体は液体化していた。



 そんな愛猫の様子にイザークは肉球を揉みながら愛おしげに目を細める。

「ユフェ、気持ち良いか? 力加減に問題はないか?」
『大丈夫です。丁度良いです』

 尻尾と一緒に返事をすると、イザークが甘い溜め息を漏らす。

「はあ、どうしてユフェはこんなに可愛いんだ。ユフェはこの世で一番尊い。嗚呼、もっとでろんでろんに甘やかしたくなる。――キーリ、例の物を」

 キーリは小脇に抱えていた蔵書をテーブルの上に置いた。聖書と同じくらい分厚い一冊のタイトルには――愛猫用品カタログと題されていた。
 キーリが大切そうに抱いて持っていたので政治的重要な資料かと思っていたが見当違いだった。
 タイトルが目に留まったシンシアは驚いて液体化していた身体を起こした。

< 118 / 219 >

この作品をシェア

pagetop