呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


『ルーカス、我が儘を言って申し訳ないんだけど教会へ私を連れて帰ってから解呪して。ここで元の姿に戻ることは危険なの。私はイザーク様の反感を買ってしまっていて、見つかったら処刑されることになっているから。……今は私に怒りの矛先が向いてないけど、それでも波風立てたくないわ』

 イザークは猫にとても甘く、そして国民想いだ。
 その一方で一部の貴族たちからは雷帝と恐れられている。その理由は一度敵だと認定した相手に容赦がないからだろう。
 つまり、一度敵だと認定されてしまったが最後、どんなに挽回しても覆すことはできないのだ。

 殺意が籠もる極悪非道な顔つきを思い出していると、ルーカスは躊躇いがちに口を開く。

「それは難しいです。先ほど謁見室で少しだけ陛下にお目に掛かりましたが、相当あなたに対してお怒りのようでしたよ。開口一番にシンシアの行方についてヨハル様に話をされていて、瞳は瞋恚(しんい)の炎で燃えているようでした」

 イザークの中からシンシア処刑の願望は消えていなかったらしい。
 シンシアは事実を知って震え上がった。


 ルーカスは大丈夫だと言って安心させるように頭を撫でてくれる。そして、今日ヨハルと共に宮殿を訪れたのは別件だと教えてくれた。

「魔物討伐の件はもともとヨハル様の結界が弱まったせいで起きました。さらに最近は謎の瘴気事件が頻発しています。貴族たちはヨハル様を激しく非難し、罷免の声が上がっているんです。皇帝陛下と何のお話をされているのかは私には分かりませんがきっとヨハル様の今後についてだと推測します」

 穏やかなルーカスの表情に暗い影が差した。
 瘴気事件はシンシアも討伐部隊へ派遣される前に耳にしていた。ネメトン付近の森で原因不明の瘴気が多発している。
 今のところ人的被害は出ていないが、それも時間の問題であるように思う。

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