呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 女性使用人の宿舎は男子禁制となっている。皇帝のイザークといえど後宮ではないのに貴族の令嬢が暮らす宿舎に何の前触れもなく訪れることは醜聞に繋がりかねない。つまり、ロッテの部屋で過ごしてもイザークが突然乗り込んでくるようなことはないのだ。

(ロッテに正体がバレて良かったのかも。私一人だけだったらこんなこと思いつかない)
 しかしシンシアの明るい表情には、たちまち暗い影が差した。

「可能なら宮殿を出て、こっそり教会へ帰りたい。教会の皆が心配しているし、ずっとロッテの部屋で過ごさせて貰うにしても限界があるよ」
「そうなんだけど、使用人の出入り口は許可証がないと出入りができないの」

 許可証には特殊な魔法が掛けられていて持ち主でない者が外へ出ようとすると警告音が許可証から鳴り、出入り口を無理に通れば弾き飛ばされてしまう。

「シンシアは容姿端麗だから侍女に変装して宮殿内を彷徨くにしても却って注目を浴びるわね」
「私の顔って目立つのね……」
 シンシアは苦笑いを浮かべた。

 何か他に方法はないか唸りながら考えていると、突然ロッテが閃いたと手を叩く。
「そうだわ! 丁度さっき侍女長が話していたんだけど――」

 今後どう動くべきか、ロッテが詳らかに説明してくれる。説明を受けるシンシアは寸の間、訝しんだが続きを聞いているうちにそれが一番良い方法だと理解した。

「分かったわ。その方法に賭けてみましょう」
「じゃあ、今後どうするかはこれで決まりね! あとは――まず着替えることから始めましょう」
「着替え?」

 首を傾げると、ロッテが姿見を指さした。姿見を覗き込むと祭服の袖やスカートは所々が裂けていて、中には太もも辺りにまで達するものもあった。確かにこの状態は、はしたない。
 そして宮殿内で祭服は非常に目立つだろう。

 シンシアはロッテからバスタオルを受け取ると、着替え始めた。

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