呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「一先ず、ユフェ様がシンシア様だったってことが一番バレてはいけないことよね?」
「私のことはシンシアって呼んで。友達に『様』は変でしょう?」
 目を眇めてみせれば、ロッテは口元に手を置いてくすりと笑う。

「それもそうね。じゃあシンシア、優先すべき点は合ってるかしら?」
「ええ、合っているわ。だけど今の私は聖女のシンシアに戻ってしまってるからユフェの部屋には戻れない。でもユフェがいないって分かったらイザーク様はご乱心になる思うの」

 顔を真っ青にして狼狽えるとロッテが真顔になった。

「……思うんだけど、イザーク様って噂通りの恐ろしい方かしら? 私の欺瞞罪を見逃してくださったんだし、きっとシンシアのことも謝罪すれば許してくださると思うわ」

 シンシアは首を横に振った。

「ユフェとして一緒にいて分かったんだけど、イザーク様は一度懐に入れた人間にはとことん甘くて優しい。だけど一度敵と見なした人間にはとことん残忍で容赦がない。……私、目が合う度に殺意の籠もった視線を向けられてたの。だからもし私がユフェだってバレたら、弓矢の的になって殺されるどころか三日間食事抜きにされて目の前で豪華な食事を見させられた挙げ句、最後は手足を切り落とされて馬で引きずり回されるの」
「食事抜きの地味な嫌がらせから一気に残酷に!! ……とにかく。ユフェ様は侍女生活に興味があるから暫く私の部屋で過ごすとか適当に理由をつければ大丈夫。陛下はユフェ様には甘いし、我が儘言っても聞いてもらえるわ」

 ロッテの提案にシンシアは感嘆して手を叩く。

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