呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 時折、誰かの宥める冷静な声がした。
 フレイアの年は十六歳。両親から蝶よ花よと大切に育てられた結果、傍若無人に育ってしまっていると女官たちの間で囁かれていた。毎日叫んでは食器類を破壊しているらしい。
 フレイアを見たことがないシンシアは一先ず知り得た情報を整理する。と、後ろから女官に小声で話しかけられた。

「気にせず仕事を続けてちょうだい」
 部屋からはより激しい悲鳴が聞こえてくる。
 閉め切られているので何を喋っているのか聞き取れないが、触らぬ神に祟りなし。今の優先事項は真面目に働いて休みを取ることなので首を突っ込んで悪目立ちしたくない。

 シンシアは女官の声かけに無言で頷くと再び目的の場所へと急いだ。リネン室に運び終えると、次にガゼボと玄関前の掃除を言いつけられた。


 後宮と一括りにしてもその中は四つの宮で構成されている。三つは妃や後の皇后が住まう宮、残りの一つは妃候補が住まう仮宮だ。

 四つの建物のデザインは基本的に統一されていて、柱頭や天井の縁には組紐文様と有翼の獅子の装飾が施され、精霊の加護とアルボス皇帝の庇護を象徴していた。しかし、それ以外は歴代の妃たちが実家の財力を見せつけるように装飾や家具を追加するので、宮殿内とはまた違う華美な女性らしい雰囲気の建物へと変貌を遂げた。

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