呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 待ち合わせ場所には馬を引く騎士や食料や薬を積んだ荷馬車などでごった返している。あたりを見回していると、早速隊長に声を掛けられた。

「あなたが詩人の()()()()殿ですね。大神官殿から守護と治癒の魔力に優れておられると伺っています」

 シンシャとはシンシアが瓶底眼鏡姿で活動する時の偽名だ。
 シンシアは隊長へ丁寧に礼をした。

「この度はよろしくお願いします。私の持ち場はどうなってますか?」
「シンシャ殿には救護所で救護に当たっていただきたい。一般市民の多くが魔物のせいで怪我を負っている状況です。地元の医師だけでは手が足りませんからな。もちろん、怪我をした際の我々の救護も頼みますぞ」
「分かりました。できれば負傷者以外に戦える騎士も何人か配置して欲しいです。私は戦闘系の主流魔法はからっきしなので」


 戦場では何が起きるか分からない。念には念を入れておく必要がある。しかし、隊長はシンシアの心配をよそに呵々大笑した。

「心配ありませんぞ。救護所は危険地帯から距離もありますし我々精鋭が魔物をすべて片付けます。小さな魔物一匹たりとも近づくことはできんでしょう」
「そ、そうですか。でも一応保険というものがあっても……」
「はははっ。シンシャ殿は心配性と見受けられる。そもそも日頃から地獄の鍛練に励む我々にとっては上級の魔物でもない限り片手でひねり潰せます」


 隊長だけでなく団員たちも「必ず前線で食い止めるから大丈夫です!」と言ってくるのでよほど腕っ節に自信があるのだろう。不安ではあるものの、彼らの筋骨隆々な身体を目にしていると不思議と安心感を覚える。

(そうよね。だって、帝国騎士団の討伐部隊だもの。いくつもの戦場をくぐり抜けてきた彼らに大丈夫かなんて訊く方がどうかしてるわ)


 シンシアは素直に彼らの言葉に従うことにした。
「そうですね。疑ってしまってすみません。私は皆さんを信じます!」

 ――後にとんでもない目に遭うことなど、この時のシンシアはちっとも知らなかった。

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