呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「嗚呼、実を言うとユフェ不足で禁断症状が我慢できそうにない……すまない」
『えっ?』


 何を謝罪されたのかまったく分からず目を白黒させていると、イザークが艶っぽい溜め息を漏らす。うっとりした表情のイザークは、そのままシンシアの身体に顔を埋めた。

(ぎゃあああっ!! 禁断症状ってまさかとは思ったけど猫吸いのこと!?)
 シンシアは頭のてっぺんからつま先に掛けて熱が電撃のように駆け抜ける。人間なら茹でダコ状態なのが一目で分かってしまうが猫の毛に覆われているのでバレることはない。

(呪いで猫にされたけど、初めて呪われて良かったって思ったかもしれない)
 冷静に感想を頭の中で呟いていたがそんな余裕は一瞬でなくなる。

「……っ!!」

 イザークの鼻先が時折身体に当たってくすぐったい。いつもの撫でる時のような心地良さとは違い、なんだかもどかしい気分になる。

(こ、これいつまで続くの!? ううっ、今のイザーク様は全然怖くない顔が良いだけの顔面凶器で……って、こっちもこっちで拷問だよ!!)

 シンシアが身を震わせて堪えていると、猫吸いに満足したイザークが顔を上げて最後に額に唇を落とす。薄くて柔らかな唇に触れられた途端、心臓の鼓動が激しくなった。
 ドキドキという音が彼にも聞こえてしまうのではないかと心配になるくらい煩い。

(っ~!! もうっ、私ったらときめいてどうするの。こんなの自分で自分の首を絞めているようなものじゃない!!)

 シンシアが心の中で冷静であれと言い聞かせていると、キーリが扉を叩いて入ってきた。

「陛下、フレイア嬢が目覚めました。医務室までお越しください」
 顔を上げたイザークは、恍惚としていた表情を引っ込めた。報告を受けていつもの厳めしい顔つきで炯々と紫の瞳を光らせている。

「ユフェ、今日はこの部屋でゆっくりお休み。俺は今からフレイアのところへ行ってくる」
 イザークはシンシアの頭を一撫ですると、身を翻してキーリと共に部屋を後にした。

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