呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 茂みをかき分ける音が聞こえてくる。
 シンシアは呻き声を上げながら意識を取り戻した。

 ぼんやりとする意識の中、最初に目に映ったのは鬱蒼と生い茂った木々だった。太陽の光が遮られていて薄暗く、そして肌寒い。どうやら森の中にいるらしい。
 浮遊感があると思えばルーカスによって小脇に抱えられている。ご丁寧なことに逃げられないよう手足はロープで縛られていた。
 視線だけを動かしてシンシアはルーカスを覗き見る。

(ルーカスは一体何をしようとしているの? 仮にも中央教会の神官で詩人なのに。それに雰囲気や喋り方もいつもの彼じゃない。――というかなんで森の中?)

 ルーカスから視線を森に向けるがどこも似たような薄暗くて陰鬱な景色が広がっている。しかし、目端に黒い靄のようなものが見えた途端、シンシアの意識は覚醒した。

(あれってもしかして瘴気? あんなに濃いのを見るのは初めて)

 高濃度な瘴気が発生する場所はアルボス帝国に一つしか存在しない。

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