呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
それは突拍子もない計画だった。
ベドウィル家は英雄四人の時代から存在する由緒ある貴族だった。
その当時から一族は、何故自分たちは精霊女王から力を賜らなかったのかと嘆いていた。その嘆きは代が変わるごとに憧憬から羨望へと変化していき、最後に嫉妬へと変わると合わせて自分たちの手で魔王を復活させ倒すことで新しい英雄になることを決意する。
特にルーカスの高祖父は大神官と親交を深めていて、賄賂を贈って神官クラスしか許されない禁書館へ入ることに成功した。そこには世間に口外できない内容の書物があるとされていたからだ。
高祖父は禁書館で一冊の本を見つけた。それは禁止された魔法や魔王を復活させて傀儡にするための黒魔術だった。彼は密かに書物を持ち帰り、写本してもとの場所に戻した。
ベドウィル伯爵家は数代にわたり、黒魔術の本を元に悲願を達成するための準備に取り掛かった。ある者は神官になって魔物や魔王のことを調べ上げ、ある者は近衛騎士となって宮殿内の地歩を固めた。
そして二十年前、現ベドウィル伯爵が計画実行に必要不可欠な魔瘴核の欠片を手に入れた。一族の悲願に関して慎重な態度をみせる彼はすぐ実行には移さず、二十年経った今漸く動きだした。
ネメトン周辺に発生した原因不明の瘴気も、討伐部隊の魔力酔い止めの薬もすべて彼やその息子――ルーカスの兄が実行した。