呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
ルーカスはシンシアの額に手をかざすとティルナ語の詠唱を始める。光を帯びた組紐文様の魔法陣が浮かび上がるとシンシアの額に溶け込むように消えていく。
ぽかぽかとした心地の良い暖かさに包まれる感覚がして、シンシアの意識は微睡んだ。
次第に意識がはっきりしてくる頃には、身体が人間の姿に戻っていた。
猫から人間の姿に戻る段階で、ご丁寧なことにルーカスがロープを縛り直した。
(呪いは解いてくれたけど、手足の拘束は解いてくれないのね)
じっと手首の拘束を見つめていると、ルーカスにお仕着せの後ろ襟を掴まれて泉近くまで引きずられる。
「やめて、放して!」
「黒魔術の本によると魔王の復活には清らかな心臓を捧げる必要があるらしい。この帝国で最も清らかな聖女の心臓なら、魔王も喜んで復活してくれるよね」
上機嫌な声色とは裏腹に物騒な言葉を口にするルーカスにシンシアは慄然とした。
殺気横溢した視線を向けられて身体が小刻みに震える。
彼は本気だ。本気で自分を殺して魔王を復活させようとしている。
ルーカスは視線を再び前へ向けると、シンシアを掴んでいない方の手を胸に当てる。
「失踪を聞かされたときは心底嬉しかったよ。やっとヨハル様が俺を見てくれるって思った。けど、実際ヨハル様はシンシアがいなくなったのは自分のせいだと責めていた」
ヨハルのことを思い出したのかルーカスは沈痛な表情を浮かべると、続いて酷く不愉快そうに表情を歪めた。