呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 鉄の掟にはアルボス教会の聖職者のための戒律が記されている。
 英雄四人の一人である聖女が精霊女王から賜ったもので、原本は禁書館にて保管されている。しかしそれだと聖職者たちに戒律を広めることができない。

 初代聖女亡き後、聖職者は鉄の掟を広めるために数人がかりで写本して各教会に配った。ところが、どういうわけか誤った内容が鉄の掟に記載されてしまった。


 ――ネメトンには魔王の身体が浄化石の中で眠っている。身体に誘われて魔王復活を願う魔物たちが現れるため、歴代神官たちが交代して結界を張り侵入を防ぎ、魔物の動きに注視すること。

 実際の鉄の掟にはこう記されている。

 ――ネメトンには魔王の核が残されている。核に誘われて魔物たちは現れるが歴代聖女が交代して浄化を行えば完全な平和が訪れる。それまでネメトンには結界を張り侵入を防ぎ、魔物の動きに注視すること。


 本来正しく書かれるべきものが誤った記載のまま、時が流れた。さらに活版技術の発達により、広く定着してしまったのだ。

「数日前、謎の瘴気を調べる上でヨハル様が直々に禁書館で保管されている鉄の掟を調べられてこのことが分かりました。だからルーカス、ここに魔王はいないんです」
「煩い。そんなこと信じられるわけないだろ。俺はあいつを殺すんだ!!」

 赤銅の目は血走り、身体は怒りで震えている。
 ルーカスは手の短剣と弓矢を引き抜くと拳を握り締める。力んだせいで溢れ出た血がボタボタと地面に落ち、やがて腰に差していた短剣を素早く引き抜いた。

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