呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


『……ろって……やめロッテ』
「やめろ、と仰っています」

 頭痛を覚えて気が遠くなった。何故悪い方向ばかりに通訳されるのか。
 シンシアが胡乱な瞳でロッテを見れば、たちまち視線を泳がせる。エプロンスカートの前で頻りに手を擦り合わせていた。

 すると突然、激しい音が聞こえてきた。互いに顔を見合わせてイザークの方を見れば、テーブルに拳を打ちつけ、わなわなと身体を震わせて顔を朱に染めていた。

 嗚呼、終わった。自分の人生は猫生も含めて終わってしまったと覚悟する。


 ごくりと生唾を飲み込んで次の動向を注視していると、イザークが震える唇から言葉を紡いだ。
「…………俺としたことがなんという失態だ。すまないユフェ。すぐに薬師のところへ行って菜園のペパーミントを根こそぎもらってくる!!」
『えっ?』
 椅子から勢いよく立ち上がると言うが早いか、イザークは部屋から出て行ってしまった。

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