呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「動物と話ができるって? だからあなたは獣臭いのね。私は親切だから洗濯水を持ってきてあげたわ。雑巾を洗った水だけど洗剤はちゃーんと入ってるし、少しは臭いが消えるでしょう?」
「……」

 ロッテは無言でその行為を受け止めていた。艶やかなポニーテールの栗色の髪は汚れ、お仕着せも濡れて清潔な白いエプロンが灰色に染まっていく。

「あなたって芋臭い・獣臭い・鈍臭いの三拍子が揃ってるのね。先輩がわざわざあなたのために洗濯水を持ってきてくれたのよ? 早くお礼を言いなさい」

 無様な格好に満足してせせら笑う侍女たち。
 頭のてっぺんからずぶ濡れになったロッテは尚もだんまりを決め込んだ。
 その態度が気に食わないのか水差しを持っていた侍女がポニーテールを無遠慮に掴んで引っ張り上げる。

「そういう澄ました態度が気に入らないのよっ! 侍女長のお気に入りだからって調子に乗らないで? 伯爵家の中でも下位のくせに、私たちのこと甘く見ないでちょうだい。あなたが仕えているユフェ様を虐めてもいいのよ? こっちは地味な仕事を受け持つ掃除係。雷帝の猫と関わりなんてないから、疑われるのはあなたになるわ!」

 髪を引っ張り上げた侍女は口角を吊り上げ、勝ち誇ったようにロッテの耳元で囁く。

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