呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「いいえ。ランドゴルの力がなくなったと分かれば私は追い出される。父に幻滅される。あの時はそればかりが頭を支配していて、我が身可愛さで動いたんです。そんな私が側でお仕えする資格なんてありません」

 話を聞いていたイザークは小さく息を吐くと肩を竦めた。

「何か勘違いをしているようだが。伯爵は娘を路頭に放り出すような冷血漢じゃない」
「私は庶子です。ランドゴルの力が宿って初めて父と顔を合わせました。『お父様』と呼ばせて頂きました。父にとって私は力がなければ取るに足らない存在なんです」


 自分の暗い身の上を打ち明けるロッテに、イザークは一通の手紙を差し出した。
 読むように促すと手紙を受け取ったロッテは、封筒を開けて中の便せんを読み始める。
 次に口元に手を当てて声を呑み、全てを読み終えると顔を上げてイザークを見つめた。

「伯爵はロッテがここに来る前に何通も俺宛に手紙を送って頼んできた。初めての奉公で至らない面もあるかもしれないとか、魔力酔いが起きて役に立たないこともあるかもしれないがその時は大目に見て欲しいとか。侍女長にまで根回しをしていたらしい。きっと愛情表現が下手なだけだ。伯爵と向き合うためにも手紙を出すと良い。いろいろ解消されるはずだ」

 イザークは厳めしい表情を緩めると穏やかな声色で言った。
「ユフェがロッテを気に入っているからクビにするつもりはない。引き続き世話係をやってくれるか?」
「……はい」

 ロッテは目尻に溜まった涙を払うと、これまでとは違う晴れ晴れとした笑顔で返事をした。

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