恋愛境界線
「あの頃の若宮さんは、思いもよらない方向から次々とアイディアを出してきてくれて、あんなに色々とアイディアを提案してくるクライアントも初めてなら、あんな風に誰かと一緒に物を創り上げて行くのも初めてで、新鮮で楽しかったなぁ」
その頃を思い出しているのか、蓮井さんの視線がいくらか上の方へと向けられる。
その目元は僅かに細められ、口調にはどこまでも穏やかさが漂っている。
「若宮さんとの仕事は、僕にとって、いつもいい刺激になるんだ」
若宮課長があんなにキツイ性格でも、職場の人間や仕事の関係者に嫌われることのない理由が、蓮井さんの話を聞いていると、なんとなく解りそうな気がしてくる。
「僕がプライベートでの感情を仕事に引き摺ってしまったせいで、今回は若宮さんを失望させてしまったかもしれないけれど……」
でも、芹沢さんのお蔭で何とか挽回の機会にも恵まれたし、それを無駄にしないようにしないとねと、一瞬沈んだ様にも見えた表情を、蓮井さんはすぐさま静かな笑顔で押し隠した。