恋愛境界線

どこに引っ越したのか訊かれて口籠った私に、課長が訝しがる。


「どうした?まさか、答えられない様な所にでも住んでいるのか?」


「そんなわけ……ない、じゃないですか!課長の方こそ、どうしてそんなこと訊くんですか?」


「別に……、ただ何となく気になっただけだ」


それって、少しくらいは私のことを気に掛けてくれているのだろうかと、課長の言葉に僅かな反応を見せれば、「つい先日まで一緒に暮らしてた相手なんだ、誰だってそれくらいは普通に気になるものだろ」と、そっけなく言い返された。


面倒見の良い課長のことだから、居候(いそうろう)をさせていた相手を多少なりとも心配するのは自然なことかもしれない。


「それに、君が引っ越してたなんて知らなかったから、わざわざ土産まで買ってきてしまったことだし」


「えっ?お土産?……それって私にですか?」


課長は仕事で福岡に行ったのに、皆とは別に、わざわざ私にお土産を買ってきてくれたなんて。


支倉さんに、というならまだしも。いや、支倉さんにも買ってきただろうけど。


それでも、このちょっとした特別扱いに驚かずにはいられない。


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