恋愛境界線

冗談の様なことを、そんなに至極真面目な顔で訊かれても対応に困る。


ここは、若宮課長なりのジョークと受け取って、私もジョークで返すべきなのか。


はたまた、そのまま素直に受けて、「いえ、違いますけど?」と、若宮課長並みのクールさで返すべきか。


……どっちも無理。そんな真似、若宮課長相手に出来っこない。


結局、薄ら笑いに近い、引き攣った笑顔を浮かべ、ソフトな対応で返す。


「そんな訳ないじゃないですかー。さっき、ほんのちょっと、スープを零しちゃって」


「ご飯といい、スープといい、それのどこが“ほんのちょっと”なんだ?ご飯もまともに食べられないなんて、君は赤ん坊か?まったく」


さっきのはジョークに見せかけた嫌味で、今のはツッコミという名の説教ですか。


「それじゃあ、失礼します」


“逃げるが勝ち”という言葉が、頭の中に忙しなく点滅していた。


< 40 / 621 >

この作品をシェア

pagetop