恋愛境界線
悔しさをぶつけるかの様に、若宮課長は荒っぽく外したマスクを右手できつく握りしめる。
「服は返してもらったから、君はとっとと帰りなさい」
「えぇー!?こんなツッコミどころ満載な状況で黙って帰れると思います!?」
「とにかく、私には君と話すことは、何一つない!」
いやいやいや!こっちは訊きたいことが山盛り状態なんですけど……!
くるりと私に背を向け、部屋の中へ入って行こうとする若宮課長に、思わずストールの端を掴む。
私に背を向けたまま、課長が「早くその手を放しなさい」と冷たく告げてきた。
分が悪いのは向こうの方なのに、どうしてこんなに高圧的な態度を取れるんだろう。
「……帰ります。帰ればいいんですよね。だったら、せめてこっちを見てそう言って下さい」
じゃなきゃ、この手は放しませんと拗ねた様に言うと、若宮課長はため息を吐き出した後、ゆっくりと振り返った。
その瞬間、カシャッとスマホのカメラの軽いシャッター音がその場に反響した。