恋愛境界線

若宮課長の態度は今までと何ら変わりがないけれど、私が周囲の目を気にする様になってしまった。


何より、いざ改まって恋人同士となると気恥ずかしくて、最初の二週間はどこかぎこちなく過ぎ去り、ここ半月でようやく私も恋人としての距離感に慣れてきたばかりだ。


「ところで、また寄ってきたの?」


「はい。やっぱり自社製品を購入する人を直接自分の目で見るのは、次への励みにもなるし」


《クレアトゥール》が発売されてからというもの、私は直にユーザーの反応を知りたくて、仕事上がりにこっそりとドラッグストアやデパート等の取扱い店へ寄ることが多くなった。


「それに、今日はスチルを見て『あれ、好き』とか、『欲しい』って言ってる人を偶然三回も見掛けたんです!もう嬉しくて嬉しくて」


こういう場面に遭遇するのは今日が初めてではないけれど、何度遭遇してもその度に嬉しくなってしまう。


帰ってきて早々に、興奮気味に報告を続ける私に、若宮課長が笑いながら「とりあえず、手を洗ってきなさい」と、母親みたいに促した。


テーブルに並べ始めた料理を視界に入れた途端、急にお腹が空いてきて、言われた通り手を洗いに向かった。


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