期間限定恋人ごっこ【完】番外編
こうやって許して私を簡単に帰してくれる。
あまりにも簡単に教室を出ることができた私は正門へと急ぐ。
急ぐ途中、通る教室全てがザワリと騒ぎ出した。
「あの人って」
「ねぇ稲美大学のミスターじゃない?」
「福澤さんだ!」
「千也さんがいるよ!」
と正門にいるあのバカが千也だということがバレた。
走って急ぐけど、中履きからローファーに履き替えるのに手間取ってしまい、そこで焦るとまた手間取る。
ようやく履き替え、全力で正門に向かうと「よぉ」と片手を上げる千也に…
「うォッ」
エルボーをした。
『ちょっと!マジでふざけないでよ。目立って仕方ないじゃん!』
私の怒りはボルテージをぶっ壊した。
私は怒っているというのに、当の本人は悪いの1つもなく、ニコニコとしていて「じゃあ帰るか」なんて呑気に言っている。
『ちょっ、手握んないでよッ』
大きくてゴツゴツとした手が私の手を包む。
私の手なんてすっぽり納まってしまい、振りほどこうにも振りほどけない。
誠人の手も千也ほどじゃないけど大きいから簡単に包まれてしまうし、力も強いから振りほどけないんだよね。
誠人は振りほどこうとも思わないけど。
『放して』
「放さねぇ」
『誠人に誤解されるから本当やめて』
「誠人って昨日の男か?」
『そうよ。だから放して』
「ふっ…」
『何が可笑しいの』
最悪だ、イライラする。
「王子が迎えに来たぜ」
え…?
後ろを振り返れば誠人が校舎から走ってきていて、「沙夜ッ」と焦った様子で私の名前を呼んだ。
誠人___そう呼ぼうとしたとき、
「沙夜」
アイツが耳元で囁いて顎を掴み取り、無理矢理振り向かせて___キスをした。
『んッ…!?』
胸を押しても、胸を叩いても、いくら抵抗しようと千也は止めてくれない、全然止まってくれない。
誠人の目の前でこんなことされて死にたくなる、誠人に合わせる顔がない。
やだ、やだ、やだ…もう、キスしないで。
その時、目の端から一粒涙が零れ落ちた。
「沙夜ッ!!」
誠人によって私と千也は引きはがされ私は息をすることができた。
千也から解放された私は誠人の腕の中にいて、胸に顔を埋めて涙を流す。
「テメェ殺されてぇのかッ」
死ぬほど怒ってる誠人の声の低さが今までの非じゃない。
「おぉ、怖ぇ」
なんて口にしているけど全然怖がってない、むしろ面白がってる。