廓の華


「えっ……?」


 つい、間抜けな声が漏れた。まん丸に見開いた目は、瞳がこぼれそうなほどだっただろう。

 当たり前のように彼に背を向けて寝た自分の行動に、完全に花魁という仕事が頭から飛んでいたと気づく。

 これは、誘ってくれているの? 今までそんな素振りを見せたことはなかったのに。

 もしかして、私が『カタブツだ』と失礼な話をしてしまったのを気にしてくれているのだろうか。

 思わず頬が熱くなる。

 すると、くすりと口角を上げた彼は静かに告げた。


「牡丹の考えているようなことはしないよ。ただ、一緒に眠るだけだ。嫌なら……」


 言葉の途中で、硬い胸板に寄り添う。おずおずとやってきた私に、彼は微笑んだ。愛しげな眼差しに見えるのは気のせい?

 優しく布団がかけられると、たくましい腕が背中にまわった。抱きしめられて、つい声が出る。


「い、一緒に眠るだけって」

「寒い日は人肌が一番温かい。牡丹は眠れていないんだろ?」


『久遠さまの顔を見るまでは、あまり眠れない日が続いていて辛かったんです』


 私の言葉を覚えてくれているんだ。

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