廓の華
足が触れた。久遠さまの体温が触れた先から伝わってくる。どくどくと心臓が騒いでうるさい。急に身体中が熱くなった。緩んだ胸元からたくましい体が見えて、彼が男だと強く意識してしまう。
近い。近いわ。今夜は、ずっとこのまま?
「温かいだろ? 安心して目を閉じて」
少し掠れた低く甘い声が耳をくすぐった。
こんなの、緊張して眠れない。大好きな人の腕の中にいるんだから。こんな機会は二度とないんじゃないかしら。
ぎこちなく彼の着物の襟を掴む。その仕草に気づいた久遠さまは、わずかにこちらへ視線を向けた。
「紅を、落とし忘れて、しまいました」
声が震える。
はしたないと思われるだろうか。これは、花魁の仕事だから言ったのではない。もう一度、あのとろけるような口づけが欲しくてねだっただけ。
普段なら、もっと上手く誘えるはずだ。仕事だと割り切って奉仕できる。でも、彼の前だと恥ずかしくて、初心な甘えかたしかできない。緊張で指まで震えてきた。
拒まれたら傷つくのはこちらなのに、期待せずにはいられない。
少しでも女だと見てくれるなら、いっそこのまま私を抱いて。
その時、小さな吐息が聞こえた。反応を伺う前に、体を抱きしめていた手が頬に添えられる。
「ん……っ」
唇が重なり、声が漏れた。
しかし、それは以前の貪る深いものではなく、唇だけを柔く吸う口づけだ。一瞬だけ熱い舌が紅を掠めるように動く。