廓の華


 書きあげた紙を掲げる。


「久遠さまが長くいらっしゃらない間に考えていたんです。ここを離れているときも、私を忘れないでほしくて」


 彼は驚いて目を丸くしていた。

 私は自分の意思で会いに行けない。来てほしいとも言えず、姿を見ることもできない。だからせめて、少しでも思い出のかけらを持っていて欲しかった。

 ひいきにしている花魁だからといって、こんなものを渡したら重いだろうか?


「不要ならば、処分しても構いませんから」

「処分などしないよ」


 起き上がった彼は、隣に腰を下ろして手紙を受け取った。切れ長の瞳が文字を追って上下に動きはじめる。

 伏せ目のまつ毛に見惚れながら、おずおずと尋ねた。


「あの、今読まれるのですか? 少し恥ずかしいです」

「なら、我慢してくれ。君が俺を考えてしたためた文をすぐに読みたくなってしまった……拝啓、久遠さま……」

「お、お待ちください。読み上げるのは困ります」

< 62 / 107 >

この作品をシェア

pagetop