廓の華
書きあげた紙を掲げる。
「久遠さまが長くいらっしゃらない間に考えていたんです。ここを離れているときも、私を忘れないでほしくて」
彼は驚いて目を丸くしていた。
私は自分の意思で会いに行けない。来てほしいとも言えず、姿を見ることもできない。だからせめて、少しでも思い出のかけらを持っていて欲しかった。
ひいきにしている花魁だからといって、こんなものを渡したら重いだろうか?
「不要ならば、処分しても構いませんから」
「処分などしないよ」
起き上がった彼は、隣に腰を下ろして手紙を受け取った。切れ長の瞳が文字を追って上下に動きはじめる。
伏せ目のまつ毛に見惚れながら、おずおずと尋ねた。
「あの、今読まれるのですか? 少し恥ずかしいです」
「なら、我慢してくれ。君が俺を考えてしたためた文をすぐに読みたくなってしまった……拝啓、久遠さま……」
「お、お待ちください。読み上げるのは困ります」