廓の華


 それは、まるで恋文だった。

 ふたりは花魁と客以上のなにものでもないはずなのに、本物の恋人だと勘違いするほど甘い。

 私だって、会いたいわ。今どこにいるのかさえも教えてくれないけれど、貴方の見えない部分が多ければ多いほど、隠された秘密に想いを馳せてしまうの。

 春が来る前に、早く会いに来て。寒い夜ほど、体を寄せ合えるから。

 また、あなたの優しい腕の中で眠りたい。


「牡丹、指名だよ。島根屋の大旦那だ」 


 久遠さまと最後に会ってからひと月経った頃、番頭が私を呼んだ。例の色狂いが、久しぶりに来たらしい。夢から覚めた気分で文を箱にしまい、部屋を出る。

 迎えて座敷に上がると、肩を抱かれた。それは普段と変わらないのだが、今日は自慢話を始めようとしない。

 ひどく険しい顔をしてこちらを睨んでいる。


「牡丹。私はやっと決意したよ。君を身請けする。楼主に話は通してあるし、共に過ごすための屋敷も建てたんだ」


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