廓の華
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 ぼんやりとした意識の中、目を覚ますと、外はまだ夜闇に包まれていた。寝ぼけながら隣に手を伸ばす。しかし、求めた温もりはなかった。

 久遠さまがいない?

 布団が冷たい。褥を出てから時間が経っているようだ。一気に現実に引き戻されて、強い不安に襲われる。

 飛び起きて辺りを見回したとき、自室に続く襖が開いた。


「起きていたのか。そろそろ声をかけようかと思っていた」


 現れたのは見慣れた黒着物を着こなした久遠だ。総髪は伸ばしたままで、ちょうど着替えを済ませたところらしい。

 顔を見た瞬間、ほっとする。


「客が減ってきたと言っても人目があるから、目立たないように時間をずらしてここを出よう」


 久遠さまは布団の上に腰を下ろして続けた。


「遊郭の門をでて水路をたどった先に、一軒の屋敷がある。辺りは竹藪に囲まれているから、待ち合わせ場所には都合がいいだろう」

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