廓の華
少し進むと、竹藪を抜けた先がひらけた土地になっていると理解した。生い茂る竹の合間に、ちらちらと光が見える。赤い光だ。
もしかして、ちょうど夜明け? 約束の時間通りに着けてよかった。
しかし、光に向かうにつれて、それが夜明けを告げる日の光ではないと気づく。
いつのまにか、全身を刺していたはずの冷たい風が、提灯とは比べ物にならない熱風に変わっている。
嫌な胸騒ぎがした。
次第に足が速まる。早く会いたくて焦っているのではない。得体の知れない不安感が込み上げて、急がずにはいられないからだ。
「嘘、でしょう」
竹藪の先に見えた光景に言葉を失う。
そこには確かに一軒の屋敷があった。平家建ての小さな家だが瓦も壁も新しい。
しかし、動揺の原因はその屋敷が炎に包まれているからである。鎮火する気配がないほど激しく燃え上がっており、とても現実とは思えなかった。
その時、脳裏に別れ際の久遠さまの声が響く。
『夜明け頃においで。君を待っている』