王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
 肉体的な脅しに屈したわけじゃない。
 …とは言えない。


「五十嵐いる?」
 上級生が顔を出したことでざわつく昼休みの1年の教室で、おれはなにをしちゃっているんでしょーか、とも思うけど。
 ことなかれ主義でやってきたおれは、流血ざたには慣れているらしい町田とちがって、過剰な肉体の接触には弱いらしいということが、今の段階で判明したのは喜ばしい。
 もう二度とヤバイやつには近づかない。
 教訓は痛い目をみてこそ身に染みる。
「あー。せんぱ-い。どうしたんですかあ?」
 五十嵐は窓側の日当たりのいい席で、ひとりで弁当を食っていた。
 明るい、実にさわやかな青春乙女の図。そう見えないのはなんでだろう。
 もちろん深く考察するのはめんどうなので、そんな思いは右から左。
 たたたっと走ってきた五十嵐が、背伸びしておれの耳元に唇をよせる。
 またしても未知の甘い香りがぷ~んと漂って。あーもう、なんて役得。
「町田、お休みですよー? やっぱ恥ずかしがってるの?」
「うーん……」
 聞いたセリフはちょっとナニだけど――。
「あのなー、ちょっと、その町田に頼まれて、聞きたいことあるんだけどさ。今いっしょに消えんのマズかったら、放課後どっかで会わない?」
「えー。今でもいいよ? ってか、今のがチョーうれしい。ウワサになれるじゃーん」
 うおおおお。なんて、かわいいことをっ。
「そんじゃ、五十嵐ちゃん、お持ち帰りしちゃうかなぁ~」
「うふ。ゲイのひとならチョー安心ですねん」
「…………」
 テンション一気にダダ下がり。
 町田、許さじ!

< 28 / 43 >

この作品をシェア

pagetop