王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
 ボールの弾む乾いた音で、おれは自分の居場所を確かめるけど。
 五十嵐の耳がなにを聞き、その目がなにを見ているのかおれにはわからない。
 町田に見えたなにかが、いま、どうなっているのかも。

「――でも、町田って、すごいよ…ね」
「…………」
「なんで、わかったんだろ……」
「…………」
 それを、笑い飛ばすはずだったおれに聞いてくれるな。
「あたしね。もう2ヶ月……生理…ないの。いつも順調…なのに」
「……………!」
 よろけるくらい許してくれ。
「も、どうしていいか……、わかん…ない」
「…………」
 いや、おれもわかんない。
 …つうか、おまえ、なんだそりゃ。
 生理不順の話じゃない…よな?
「相手は? 知ってんの?」
「言えるわけ…ないじゃん」
 震える小さな声で答えた五十嵐は笑っていた。
 人形みたいにキレイな顔で。
「バカか、おまえ」
 なので、おれの口はするりと思ったことを吐き出した。
「相手、わかんねえわけじゃねえんだろ? だったら連帯責任じゃん。なんで言わねえよ! なんでふたりで抱えねえよ!」
「だって!」
 だって、なんだ?
「捨て…られたく……ない」
「…………」
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