王女ちゃんの執事2『ひ・eye』焼きそばパン、リターンズ。
「推薦。取りてえのか」
「…………」
「それとも志望校…東大ってのは、マジなのか」
「チクれよ! チクればいいだろっ」
 それはまた図々しい望みだね。
「で? おれに決めさせるんだ、おまえの将来。ふてぇなおまえ」
「…………」
 木村が息を飲む。
 そうだよ、気づいたか。
 おれがチクれば、停学にしろ退学にしろ、親の決めたコースからは外れられる。
 やらかしたのはおまえでも、背中を蹴りとばすのはおれ。
「おれはチクらない。おまえの望むものが手に入るなら最後まで続ければいい。ただしもっとうまくやれよ。前のおれですら気づいたんだ、後ろの近藤や横の田中にもわかる。見える。まぁ、やつらはクソ真面目だから、最後まで自分の答案とにらめっこしてて、おまえのことなんか気にしやしねぇだろうが」
「…………」
「木村よ……」
 おれは、なんにもしてやれねえから、さ。
「おれごときに軽蔑されんのと、親とやりあうの――。どっちが痛ぇかなんて、考えるまでもないんじゃね?」
 おれ的最大のエールを送って窓際に向かうと、背後で安ベッドがきしんだ。
「軽蔑なんて……、もう死ぬほど、されてらぁ」
 生まれて初めて聞いた声。
 町田がここにいたら確実に卒倒する。
 おれでさえ背筋が震えたほどに冷え冷えとした、うめき声のようなつぶやき。
 誰に? 
 誰に軽蔑されて苦しんでる?
「…………」
 考えるな、おれ。
 めんどくせぇのはキライだろ?
 キライだよな。


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