マネキン少女
物音すらしない。


胸騒ぎを感じ、もう一度ノックするとゆっくりと扉が開く。


すると、秋で肌寒いというのにやけに薄着のデップリした男が顔を覗かせた。


こいつが、ヒロを殴っていると考えただけで殺意が湧くが、私には何もする事が出来ない。


「あんた、誰?」
「あ!ヒロ君の同級生です!!ヒロ君居ますか?」
「あー!ヒロなら寝ているよ!」
「風邪でも引いたんですか?」
「ああ、そう!」


やっぱり、風邪だったんだ。


一目でも会いたいが、そんな無茶は言えない。


「そうですか!お大事にして下さい……」


私の声が聞こえたヒロが、ひょこっと顔を覗かせるかも知れないなんて期待したけどそれは無かった。


「ああ!伝えとく!」
「それでは、お邪魔します!」


扉がゆっくり閉まったのを確認して家に帰ろうとしたが、諦め切れなくて家が見える場所に突っ立っていた。


しかし、何時まで経ってもヒロが現れる事無く時間だけが経過していく。


気が付いたら空は薄暗くなっており、仕方なしに家に帰った。


私はわがままになったのかも知れない。


学校がある日は毎日ヒロと喋っていたから、それが普通に感じてしまう。



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