【コミカライズ】皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―
「確かに、奪った命は戻ってこない。それが例え⋯⋯自分や、誰かを守るための刃だったとしても、なかには批判を唱える人もいるかもしれない。
無知な私には、それの何が罪なのかもわからないけど。でもね、その後悔や痛みを乗り越えて、信念を貫こうとしているあなたは、帝国にとって、何よりも大切な人だと⋯⋯そう思う」
「アイリス⋯⋯」
純真で、痛いくらい真っ直な瞳が俺を射抜く。
この十年、暗闇を生きてきた俺の足元に光が差し込む気分だった。
彼女の言うように、過去は変えることは出来ない。だからこそ俺は、懺悔のごとく、これまで誰よりも組織と真摯に向き合ってきたつもりだ。
もはや――それは執着とも言えるかもしれない。
そんな無念の中にある信念を、彼女が認めてくれたことにひどく心が突き動かされた。
ジャドレを奪い、お前を一度は捨てたというのに⋯⋯。
「もう、一人で背負わないで。まだ、ケーラ先生に怒られてばっかりの、勉強不足のお妃だけど、それでも一緒に悩んだり、背中押してたりすることはできるから」
そう言って、一度腕の力を緩めると、彼女はひまわりのような笑顔で、俺を覗き込む。
「――だから⋯⋯私の方こそ、離れないから覚悟してね。お父さまがあなたを助けてくれてよかった」
そっと、シャツに触れた小さな白い手。その下にあるのはあの日の刻まれた刃の跡。
声が出ない。ゆっくりと、その手に重ねた。
この震える心を治める術を、俺は知らない。
「ありがとう」「ごめん」言いたいことは沢山ある。
しかし、どのセリフも軽んじたように思えて、くちにするのは憚れた。
「アイり――」
「大好きよ、ルイナード」
直後、そのまま伸び上がってきたアイリスに、唇を塞がれる。
『大好き』
一度捨てた輝かしい思い出が、再び手に入るとは思わなかった。
尊くて。自分には勿体ない。大切だからこそ手放した手。
俺はこの手を――生涯かけて守りぬく。
その瞬間、自らの頬を温かいものが伝ったような気がしたが、それには気づかぬふりをして、しばし塩⋯⋯いや甘い口付けに陶酔した。