皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】


帰宅すると兄さんが蜂蜜色の髪を揺らし「おかえり」とにこやかに出迎えてくれた。

家の中からはほんのりいい香りが漂い、部屋に入るとテーブルの上にはすでにサラダとスープが並んでいた。珍しい事に戸惑いつつも、アンナさんからのおすそ分けの料理もあったことから、私たちは少し早い夕食の席についた。


「アイリス⋯⋯なんだか最近疲れてないか?」


兄さんは食事をしながら、私の顔色を覗き込んできた。

その一言で、慣れない食事の準備してくれた理由を悟り、フッと笑みがこぼれる。


「大丈夫よ。そんなことないわ。だから慣れない料理してくれたの? アンナさんも同じようなこと言ってたけど、みんな気にし過ぎ」

「うそだ。食欲もないだろ?」


断言した兄さんは、私のお皿にちらりと視線を落とす。

アンナさんからもらった山羊肉の料理とサラダとパン。これと言って変わりないの食卓。しかし、自分のプレートにはパンとサラダのみを少量にした。この流れで言い当てられると、少し反論に困ってしまう。


「ちゃんと食べないと倒れるぞ。ダイエットでもしてるのか? 元気もないし」

「元気よ。それにダイエットなんてしてないわ。そういうこと女のコに言っちゃだめよ」

「だって、馬のように食べていたアイリスが少食になったら、そりゃ心配になるだろ」

「馬って⋯⋯! 確かによく食べる方だけどね――」

「それとも恋煩いか? この前の舞踏会でなんかあったんだろ?」


私は反論しようとした口を閉ざし、なんとなく視線を反らしてしまった。すでに食事を終えた兄さんは、腕組みをして、静かに返事を待っている。
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