皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】

兄さんの旅立ちを見送って、すぐあとのこと。私はサリーに一言告げてから、赤いローブを片手に庭園へと向かった。

サリーからは「少しお休みになっては?」と心配そうにされたが、なんとなくそこはカルム団長の戻る前に――ひとりで行っておきたかった。




美しい庭園を横切り、騎士団の訓練場を超えて、やがて断崖絶壁の鉄格子前に見えてきたのは、巨大な墓石だ。

三メートルほどの大きさの、太陽の光を受けて輝く十字架。

ここは兄さんの話していた、戦死者のお墓だ。

下方にある墓石板には、眠っている人物の名前が右から順に刻まれている。

その数は、十名にも満たない。

というのも、本来であればヴァルフィエ帝国はグランティエ家が収めるようになってから、戦いとは無縁の世の中。

お父さまの殺されたあの事件こそが、最初で最悪の事態であると今でも受け継がれている。

視線で名前をたどっていくと、一番左側に父の名前を発見した。


―― ジャドレ=ロルシエ


お父さま。ずっと来れなくてごめんなさい。


墓石に刻まれる名前に触れたとき、お墓の手入れが行き届いていることに気づいた。また、そばには少ししおれた花が供えられている。


ここ最近のものかしら?


長さの揃っていない、真っ赤なバラの花だ。

普通であれば、お墓にバラは良くないものとされている。備えた人物は花に関する知識があまり無いのだろう。

それでも、私は心が温かくなった。

心のうちで感謝を伝えながら、十字架の前で手を合わせる。


お父さま⋯⋯。今でもお父さまを思ってくれている人が、この城の中にいるみたいよ。


大雑把な兄さんは花を備えるというよりは、お酒を注ぎそうな気もする。とすれば⋯⋯クロードさん辺りだろうか。

私も明日からは庭園の花をいただけるように、お願いしてみよう。

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