秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
運命の再会
 私はスーツのジャケットを羽織り、リビングの隅にある全身鏡で身だしなみの最終確認をする。

 よしっ。栗色の長い髪もうしろでひとつに纏めた。……初出勤だから緊張するな。普段あれだけ恵麻(えま)に食事は大事と口を酸っぱくして言っているのに、今日は朝ご飯もほとんど喉を通らなかった。

 頬に手をあて、思わずため息をつく。すると、ふと鏡に映る腕時計の文字盤が目に入った。

「もうこんな時間!? 初日だし保育所の先生にもゆっくり挨拶したいと思っていたから、そろそろ出ないと間に合わない」

 慌てて振り返ると、カーペットの上に座っていたわが子が勢いよく立ち上がる。

 私の三歳の娘、恵麻だ。

「ママ、みて! じぶんでくつしたはけた」

 走ってきた恵麻は、私のスカートにしがみつき、よろつきながらも片足を上げて見せる。
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