秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 俺は唸る怒りを押さえつけ、深呼吸をする。怒りが頂点に達すると、自分でも不思議なくらい落ち着きが戻ってきた。

 俺は冷ややかな眼差しで神田を射抜く。

「神田。お前は今までよくやってくれていた。でも、お前は人として超えてはいけない一線を越えた。俺は自分の父が、会社よりもひとりの人間を思いやれる人だと信じている。お前の処遇は社長に任せる。二度と彼女たちの前に現れるな。次に現れたら……俺は今度こそお前を許さない」

 そう吐き捨て、俺は再び車に乗り込んだ。神田の表情は最後まで揺るがなかった。

 エンジンの唸り声とともに車が加速する。俺はアクセルを一定に保ちながら、マンションへ戻る道を急いだ。

 今すぐ天音に会いたい。

 様々な思いが心の中を駆け巡っていた。天音の顔が脳裏に浮かび、俺はハンドルを握る手に力が入る。切り裂くように胸が痛んでいた。

 一秒でも早く、君をこの手で強く抱きしめたかった。
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