秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 彼がエントランスホールの出入り口付近で社員らしき人物と話している姿を認め、思わずドキッとした。ほどなくして、彼の右手がなにかと繋がれているのを見つける。

 ……男の子?

 私の心臓が大きく波打つ。

 相良さんは、恵麻よりふたつくらいは年上であろう男の子を連れていた。話が終わったのか、相良さんが男の子と一緒にビルを出ていく。

 私は息を呑んで立ち止まった。

 なんだ。私に会ったときはもう結婚していたんだ……。

 胸が潰れそうに痛む。心が傷つき、目の前が真っ暗になった。

「ママ?」

 恵麻の呼び声にはっとした。

 硬直したままの私を不思議に思ったのだろう。小首を傾げた恵麻が、目をパチパチと瞬かせてこちらを見つめていた。

 私は握りしめている小さな手の温かさを再確認する。

「ごめん。お腹空いたね。帰ろうか」

 なんとか笑顔を作って言った。

 関係ない。彼がどうであろうと、私にとって恵麻がなによりも大切なのは変わらないのだから。
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