秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「ママ、どれにする?」

「ママはどれも好きだから、相良さんに先に選んでもらって」

 私はトレーをテーブルに置き、飲み物を並べようとカップに手を伸ばした。しかし、私の手がカップを掴む前に、相良さんに手首を取られる。

「遠慮しないで。ここではなんでも好きなものを選んでほしいんだ」

 ふっと唇を綻ばせる相良さんに、私の胸が早鐘を打つ。掴まれた彼の手から体温が伝わってきて、自分の頬がみるみる紅潮していくのがわかった。

 どうにもいたたまれなくなった私は、耐えきれなくなって「あっ」と前触れもない声を上げる。

「フォークが足りなかったので持ってきます」

 そう言い、私は彼の手から手を抜きとると、カウンターの奥のキッチンへと逃げ込んだ。カトラリーが仕舞われている引き出しを開けたものの、足の力が抜けてその場に座り込む。

 相良さんの体温が移り、触れられた手首がじんわりと熱を持っていた。

 彼に優しくされるたびに胸が苦しくなる。手を伸ばせば届く距離にいるのに、この人の心は絶対に私の手に入らない。それがわかっていたから。
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