秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「仕事は楽しい?」

 俺の突然の問いかけに、彼女が小さく肩を跳ねさせる。天音は持っていたカップをテーブルに戻した。

「はい、とても。部署内も優しい方たちばかりですし、子供用品は見ているのも楽しいので自社製品を覚えるのも苦になりません。あと、私自身子育ての最中なのでいろいろと勉強になります」

「ならよかった」

 天音が帰ってからも仕事について勉強しているのは知っていた。彼女は俺に気づかれないようにしているつもりなのか慌てて片づけていたけれど、俺が帰るまでの時間、資料やノートを広げていろいろと書き留めているようだった。

 努力を怠らず、なにごとにも一生懸命な彼女の姿勢は、会社の経営に携わる立場の人間としても好感が持てる。加えて先ほどのように自然に気遣いもできるし、なにより彼女といるととても心地が良かった。

 同じペースで呼吸をしているような、うまくは言えないが、彼女とならいつか俺がグループを引き継ぐときがきても変わらず今と同じペースで歩いていけるような気がしていた。
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