秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「おばあちゃん!」

 静かな分、表情で精いっぱい喜びを表現している恵麻がベッドに駆け寄る。

「恵麻ちゃん、来てくれたの?」

 ベッドの上半身を少しだけ起こした状態で眠っていた女性が、起き上がって恵麻に腕を伸ばした。抱き上げたかったのだろうが、女性の細々と痩せた腕では叶いそうになかったので、私は代わりに恵麻をベッドの端に座らせた。

「恵麻ちゃん、また大きくなったね」

 女性は、侘しげに微笑みながら恵麻の頭を撫でる。そして、「天音も。来てくれてありがとう」とその視線は私に向けられた。

 私よりいっそう細身で、同じ長い栗色の髪をしたこの女性は、私の母だ。

「なかなか来られなくてごめんね。いろいろあって、少しバタバタしてて」

 私が言うと、母は恵麻の頭を撫でたまま申し訳なさそうに眉尻を下げる。
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