秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「忙しいんじゃないの? 病院の中にコインランドリーもあるし、買い物だって売店があるんだから。私を気にして無理してここに来ないでいいんだからね」

「無理はしてないよ。恵麻だっておばあちゃんに会いたがっていたし。それに売店にないものも多いでしょ。お母さんの好きないちご、もうおいしそうなのが出てたから買ってきたよ。あとで洗って食べよう。着替えや日用品はいつもの場所に入れておくね」

 私はいちごを床頭台のテーブルに乗せ、持ってきた荷物を棚に仕舞っていく。

 相良さんの家に置いてもらうようになってから、約二週間が経った日曜日。

 ハイツにかかわる手続きや、必要な荷物の運び出しなどがひと通り落ち着いた私は、ひさしぶりに母が入院している病院を訪れていた。

 ほとんどの家財や電化製品は水に濡れて処分することになったし、残りの荷物の運び出しは相良さんが車で手伝ってくれたおかげでそれほど苦労せずに終わらせられた。

 今日も私が母のお見舞いに行くと伝えると、『俺も行くよ』と言うものだから、なんとか説得して恵麻と電車で来た。

 さすがにお見舞いにまで付き合わせられない。

 いささか納得がいかなそうに私たちを見送っていた相良さんの顔を思い出し、私はひとり苦笑した。
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