偏にきみと白い春



「はあ、ダイジョーブ?綾乃」

「はあ、はあ……」



息が上がってうまく喋れない。ショッピング街の路地裏。手を引かれて私も同じように走ったけれど、やっぱり男の子のスピードには追いつけないみたいだ。

体育の成績を落としたくなくて、ランニングやストレッチをして平均的には運動もしていたつもりだけど、やっぱりそれじゃ敵わないんだな。もう少し努力しなきゃ、と自分の胸に刻みつつ。



「ここまでくれば、さすがに大丈夫だと思うけど……」



繋いだ手は、まだ離されない。



「ごめんね、私のせいで……」

「しょーがないよ、ていうかあれは男が悪いよ」

「でも……」

「うん、でも、女の子なんだから、外に出るときは気をつけて。綾乃危なっかしいんだもん」

「ごめん……」

「はは、そんな落ち込むなよー! こんなに走ったの久しぶり! むしろきもちいー!」



そう言いながら拳を上に突き上げて、白い歯を見せて笑う。いつだってそうだ。

領はいつも、笑っている。それが周りに伝わって、伝染して、私にもうつって、人が笑顔になっていく。



誰かに笑顔を届けられる人だ。誰かの世界を変えられる人。誰かのことを救う人ができる人。



───ああ、領って、バンドマンになるべき人だ。




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