偏にきみと白い春
「ね、領、」
「ん?」
「……ありがとう、助けてくれて」
「はは、助けたなんて言われたら、まるでヒーローみたいだけどー! どういたしまして!」
照れて笑う領の笑顔は眩しい。ヒーローにも見えるよ。いつだって私の手を引いてくれるんだから。
大嫌いで、許せなくて、情けなくて、どうしようもない自分と、この世界のこと。ほんの少しだけ綺麗に見せてくれる。ほんの少しずつ、好きにさせてくれる。そんなの、ヒーロー以外の何者でもない。
「あのさ、どうして、彼女って、言ったの?」
どうして、この手を離さないの?
「え、うーん、ダメだった?」
「ダメ、というか……」
「でも今日は、おれの彼女役で、おれは綾乃の彼氏役、でしょ?」
ドクン、と。
音を立てた。わかりやすく、胸の真ん中が、血流が逆流するみたいに強く、大きく、身体の中で響いた。
───この、胸の高鳴りの理由。
気づかないでいることだってできた。名前をつけずに、知らないふりをしていたってよかった。勘違いならそれでも。
だけど、わかった。わかる問題を解かないのは、私のポリシーに反するんだ。だからここで、自分の胸の中で、ちゃんと答えを出さなきゃいけないよ。
───わたし、領のこと、きっと好きだ。