偏にきみと白い春




スタジオに着いてセッティングを済ませると、慌ただしくスタッフたちが定位置につきはじめる。もうすぐ本番、この空気にももう慣れた。



「あと1分でCM明けます!位置確認してください!」



全員の定位置を確認する。

中央奥に浩平のドラム。その右斜め前に怜のベース。左横に領のギター。


そして、ステージの中央、ボーカルの私。


ずっと変わらずにやってきた。




「───ねえ、領」



あと30秒というところで、隣にいる領に話しかける。周りは気づいていないくらいの小さな声だ。緊張をほぐすため、とでも思っていて欲しい。



「ん?」

「こんなことになるなんて、出会った頃の私たちは何にも知らなかったね」

「んー、おれはちょっと信じてたけどなー」




なにそれ、領らしいね。CM明け15秒前。私は静かに目を閉じる。




「でも、あの頃からずっと変わらないことがひとつ」

「……何?」

「───綾乃が好きなこと」




領の声と同時に、カウントするスタッフの声がスタジオに響く。それに合わせて、わたしはゆっくりと目を開く。



───3、2、1。


画面が変わる。空気が変わる。司会者がベストなタイミングで声をあげる。




「さあ次は、今人気急上昇中のバンド、はるとうたたねの登場です!」



打ち合わせ通り、その声と共にイントロ、浩平のドラムが始まる。


───曲が始まる。


私は大きく息を吸った。

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